【こうばを訪ねて vol.11】「できないとは言わない」高い技術力と提案力でどんな問題も解決
文/金子 美貴子
金属加工品の一大産地、新潟・燕三条で30社以上の工場と一緒に家事道具をつくる、家事問屋。毎日の暮らしの「ひと手間」を助ける道具をお届けしています。
私たちが大切にしていることは、道具と共に、作り手の想いもみなさんへ届けること。
そのために日々工場を訪ねて、既存製品の反響を共有しながら、新たな製品づくりを進めています。
今回訪ねたのは、設計から金型製造・プレス成形・溶接、梱包まで、一貫生産で対応してくれる有限会社小澤工業。分業化が進んでいる燕三条地域では珍しい会社です。
家事問屋では、「浅漬け板」「洗濯板」などを製造していただいています。
開発者として約30年ものキャリアを誇る専務の小島義孝さんに、家事問屋の製品開発の裏話やものづくりへの想いについてお話を伺いました。
目次
家事問屋はいつも一生懸命売ってくれる
―小島さんと家事問屋のつながりのきっかけを教えていただけますか?
(家事問屋の立ち上げ人である)久保寺さんとは飲み友達なんです。私は前の会社で営業をやっていて、それから製品開発の専任になって20年以上やってきました。家事問屋の運営元である下村企販㈱とは、ずっと競合する立場だったんです。
―そうなんですね!
そういう関係性の中で、久保寺さんとも知り合いました。でも、彼は競合とか、そういうことを全然気にしない。壁を作らない人なんです。だから、同じものづくりに携わる仲間として、飲み友達として、いろんな話をしてきました。
今の会社に転職したときに、「これできる?」とすぐに仕事の話を持ってきてくれたのも久保寺さんでした。ありがたかったですね。
―工場の立場で一緒に仕事をするようになってからの、家事問屋のイメージはいかがですか?
私がいつも思うのは、家事問屋はすごく丁寧に、一生懸命売ってくれるということです。
「売れ行きが芳しくないものでも、売り続ける」というのが家事問屋の考え方。今は「売れる時に売る、売れなくなったら終わり」。出してみて売れなかったら、製造側への説明は特になく廃盤、というのがよくある世の中です。
でも、家事問屋に「売れなかったらやめる」という発想はないのだと思います。きちっと説明しながら、何とか売れるように、わかってもらえるように努力してらっしゃいますよね。そんなに我慢してくれる会社はなかなかないと思うんです。だから、ユーザーの方もついて来てくださるんじゃないかなと思っています。
もしがんばって製造した製品が売れなくても、「ここまで一生懸命やって売れなかったらしょうがない。次がんばろう!」と思えますし、「いつかわかってもらえるはず」とも思えるんです。だからとても信頼していますよ。
開発者以上に開発者目線での提案
―「信頼」ということで言うと、家事問屋のスタッフも小島さんへの信頼が半端ないです。長年、開発者として活躍されてきたと伺って納得しました。「浅漬け板」や「洗濯板」の開発秘話があれば教えていただけますか。
「浅漬け板」は厚さ5ミリの板を使っていますが、最初は2ミリと3ミリの板を溶接で合わせて、上に取っ手を付けてほしいという要望でした。要件を確認すると、直径は決まっていて、板厚は自由だけど、重しとして重量が大事とのこと。漬物を作る道具なので、サビたり汚れが付着したりしないよう、できるだけシンプルにした方がいいと思いました。
自分自身、30年近く開発に携わってきて、その道具に求められる機能に特化したシンプルなデザインにこだわってきましたし、経験上、機能がわかりやすいものは売れるんです。自分が家で洗い物を担当していて実感するのですが、洗いやすいこともとても重要ですよね。
そこで、メインの機能である「重さ」を調整できるように重ねられるようにして、手や箸で取りやすい形状を提案しました。
―ユーザーの皆さまには重ねられるところがとても好評です。
いつも試作品を妻にも使ってもらうんですが、妻は「鍋で低温調理をする時に、浮いてくる袋を沈めるのにちょうどいい」と言っていたので、「重しとしてそんな使い方もあるんだな」という発見もありました。特に余計な説明もせず、黙って妻の様子を見ていると、自然と使うものと使わないものが出てくるので、売れるかどうかのヒントにもなります。
―「洗濯板」は、他にできるところがない溶接の技術で対応いただいたと伺いました。
「洗濯板」は、表面と裏面をぴったり合わせて、接合面をレーザー溶接するんです。0.1~0.2ミリの細いビームを集中的に当てます。熱量が少ないのでヤケも防止できて、研磨も必要ないので、その分工程が少なくできるのが利点ですが、接合面に隙間があると穴が開いてしまうので、両面が完全に一致しないといけない。そのカットがすごく難しいところで、それが正確にできるレーザー設備と技術を持つ会社がなかなかない、ということなんです。
―小島さんがいなければ実現しなかった製品がたくさんあります。開発経験が長く、自社、他社の技術にも精通している小島さんならではのご提案ですね。
開発者として技術についても勉強してきました。その経験を活かして、家事問屋はじめブランドと同じ方向を向きながら、ユーザーの使い勝手を考慮したものづくりをしたいなと思っています。
ものづくりの醍醐味は、作り手としての想いが伝わった満足感
―開発を20年以上やってこられたということは、小島さんは昔からものづくりが好きだったんでしょうか?
昔は決して好きとは言えませんでした。最初はスケジュール感も何もわからないから、発売日に間に合わせることが出来なくて、営業にひどく怒られました。燕に来た時も、最初は工場の社長さんたちに「そんなこともわからねぇんか」って呆れられたり叱られたり、辛いことも沢山ありました。昔の工場の社長さんははっきり物を言う人も多かったので、傷つくこともたくさんありました(笑)。
でもその経験のおかげで、今があると思っています。誰も教えてくれないから、叱られながら一つひとつ自分で覚えていくしかない。ずっとそれを繰り返して、粗方なんでもできるようになったら今度は「なんて面白いんだろう」と一気に逆転しました。
―そう思えるようになったのは、何年くらいたってからですか?
20年弱くらいですかね。今ようやく、というぐらいのものです。
―20年…! その苦労を乗り越える原動力になったものづくりの魅力は何だったのですか?
私が思う開発の楽しさは、ただ一つ。「自分に共感してくれる人がいっぱいいた」ということです。開発者には「こうしたらみんなが喜んでくれるはずだ」と思ってこだわったポイントがあります。製品が売れるということは、そこを多くのユーザーが理解してくれて、買ってくれたということだと思うんです。自分が考えて形にしたものは間違いじゃなかった、作り手としての自分の気持ちが伝わった、と思えること。自己満足ですが何ものにも代えがたい喜びです。
今は、家事問屋の開発担当が「こういう風にしたい」と言ったら、「いや、これでもこっちの方がいいんじゃない? なんでかと言うと、こうだから」「なるほど、そうですね」なんて言ってくださる。そうやって提案に共感してもらえるとうれしいんです。そういった積み重ねが自分の宝かなと思っています。
自分のための仕事が産地のためになればいい
―最後に、小島さんの産地への想いをお聞かせください。
「必ず、次世代に繋ごう」とはそれほど思っていないんです。後進の育成ということでも、必要な時にアドバイスはしますが、それ以上は口うるさく言うことはしていません。自分が必要とする時に言われたことじゃないと、人はなかなか頭に入らないこともありますからね。
―勉強として与えられた知識では身にならないということですね。でも傍から見ていて、歯がゆくなったりはしませんか。
もちろん、ゼロではありません。でも、時間はかかっても、やっぱり自分自身で一つひとつ経験するしかないと思うんです。失敗したり恥をかいたりしながら、自分が本気で「覚えたい」と思えてやっと身に付くものなのかなと思っています。会社や上司のためじゃなく、自分自身のために仕事をしてほしいんです。
―産地を継続させることを目的とするのではなく、自分自身のための試行錯誤を見守りながら、長い目でサポートしていく。
そうやって自ら経験して得たものが、自分の宝になると思うんです。そのためにがんばって経験を積んで実績を作ればいい、と若い人にはいつも言っているんですよね。結果的に産地が続くことにつながればいいと思っています。
最新の設備投資と技術研鑽を惜しまず、高い技術力と提案力で、どんな要望にもワンストップで応えられる唯一無二のメーカー小澤工業。
産地に根ざす家事問屋にとって、この上なく心強いパートナーです。
産地全体の繁栄を目指し、皆さまに細く長く愛される製品づくりに邁進していきます。
読みもの登場製品
洗濯板
価格:2,970円(税込)
浅漬け板
価格:2,750円(税込)