【こうばを訪ねて vol.13】地場の技術を守る“産地の下支え”としての自社工場

文/金子 美貴子
金属加工品の一大産地、新潟・燕三条で30社以上の工場と一緒に家事道具をつくる、家事問屋。毎日の暮らしの「ひと手間」を助ける道具をお届けしています。
私たちが大切にしていることは、道具と共に、つくり手の想いもみなさんへ届けること。
そのために日々、地場の工場と手を取り合い、新たな製品づくりに取り組んでいます。
今回訪ねたのは、家事問屋の運営元である下村企販株式会社の製造部門、柳山工場。本社から車で3分ほどの距離にある自社工場です。製造はもちろん、他社への発注窓口から、スケジュール管理、検品まで、製造管理全般を担っています。
家事問屋の製品では、「横口ボウルザルセット」や「ゴミ袋ホルダー」などを製造しています。


今回は、地場の工場とのチームワークで家事問屋の品質を守る柳山工場の工場長、久保田さんにお話を伺いました。
目次
家事問屋クオリティの要
―“問屋の自社工場”として、柳山工場ではどのような業務を担当していますか?
この工場では100%自社製品を製造していて、20%ほどが家事問屋の製品です。
製品に応じて、協力会社への発注や仕掛品の運搬、スケジュール管理、検品、梱包までを行っています。新しい製品を生み出していくための試作品づくりも大切な仕事です。
―製造以外の業務も多いんですね。
はい。燕三条では特定の専門技術に特化している会社が多く、産地全体で分業制を取っているため、「この部分はA社、このパーツはB社」というように、一つの製品に複数の会社が関わっていることが多いんです。グローバル化のご時世においても、地域内で製造を完結できるのが大きな特徴です。
小規模な工場が多いので小回りも効きますが、その分、生産計画には配慮が必要になりますね。

―各社の得意分野を把握していないといけないし、生産のキャパシティも調整しなくてはいけませんよね。
家族経営の小さな工場も多く、人員体制や工場の混み具合など事情もそれぞれですからね。トラックがない工場もあったりするので、当工場で運搬を行うこともあります。製品に応じてやり方はさまざまですが、製造まわりのサポートも含めた包括的なコーディネートを行っています。

10社の連携で完成する「横口ボウルザルセット」

―柳山工場の象徴的な製品が、全部で10社ものメーカーが関わっている家事問屋の「横口ボウルザルセット」だと思います。関わる会社がここまで多いのは珍しいですよね?
そうですね。家事問屋の製品ではないのですが、当工場のメイン製品の一つである雪平鍋でも7~8社に関わっていただいていますが、それと比べても多いです。
―製造面ではどのような動きをしているのですか?
ボウル屋さんにはボウル、ザル屋さんにはザルを製造いただいていて、ボウルは当工場でも加工をします。当工場で横口用の穴開けをして、その後に溶接屋さんに横口の溶接をしてもらいますが、溶接が均等でないと外れたり漏れたりしてしまうので、丁寧にやっていただかないといけません。溶接時に「バリ」という不要な突起やギザギザができたりもします。
なので、当工場で最終チェックをして、不具合があればバリ取り等を行います。当工場で修正しきれないときは研磨屋さんに外注することもあります。限られた納期のなかで、そういった細かい後処理まで行うのが難しい工場も多いので、当工場で対応するようにしています。
―細かい部分をフォローしてくれる工場が自社にあるのは大きな強みですね。
「横口ボウルザルセット」を当工場がない状態で作るとしたら、ボウル屋さんが溶接屋さんに依頼をして、運搬もどちらかが担わなければなりません。また溶接後のバリ取りも同様です。「私たちは工場と工場を繋ぐ役目を担っていて、そうすることで、各工場により得意分野に注力してもらえると思っています。

―柳山工場の得意分野はありますか?
ワイヤー製品は基本的に一貫生産ができますが、他の製品は協力工場さんと共同になりますね。といっても、私たちはあくまで問屋ですので、部品を溶接したり、バリ取りなどの後処理をしたりと、発注先の工場でまかなえきれない部分をサポートする動きが特徴的かと思います。

今までにない製品を作ろうとすると、新しい製造体制が必要になったりしますが、小規模な工場さんでは、技術的にも人員体制的にも対応が難しい場合も多いです。納期と品質を守るために、トータルで必要な手立てを取る製造管理が私たちの役割だと思っています。
人員不足の協力会社をフォロー

―他社の人員体制を考慮したフォローまで行うこともあるとのことですが、具体的にはどのようなことをするのですか?
最近だと、ある協力工場さんの話ですが、10人くらいいる作り手さんのうち、ご高齢だったり、体調を崩されたりで、今4人くらいお休みされているんです。40%の力がなくなるって、大きいですよね。そこで、人員体制が整うまで、私たちがそのマイナス分を請け負っているんです。
―というと?
当工場にも同じプレス機があるので、その協力工場さんでまかなえなくなった分を我々で製造して、人員体制が整ったらお仕事を戻す、ということです。一時的にこれまで通りに生産できない状態になったからといって、違うところに仕事を回してしまうと、その協力工場さんは仕事を失うことになりますから。
産地と、工場と一緒に歩んでいきたいというのが私たち下村企販の思いなので、困った時は助け合っていきたい。柳山工場が産地を下支えするような存在になっていけたらいいなと思っています。
―自社の製造体制を、他社のためにも活用しているのですね。
当社としてはもちろん、産地として一番避けなければいけないのは、お客さんに製品が届かない、という事態です。そのために、地場でなんとか協力し合って、穴を開けないことが重要です。そのために手を尽くすのが我々のミッションだと思っています。

燕三条の技術を次世代につなぐ「産地の下支え」を目指して

―柳山工場がそのようなサポートをする機会は増えていますか?
ちょこちょこ出てきていますね。家族経営でスタッフが3~4人とか、高齢化で人員確保に苦心している工場が増えていますので。
―産地の技術継承の取り組みは最近始めたものですか?
この工場は当社の立ち上げ当初に、廃業する会社から買い取ったものですが、問屋が自社工場を持つことで試作品もスピーディーに作れて、発注もスムーズにできますし、協力会社さんにできないところをこちらでやることも想定していました。
町の小さな工場に、当社の一つの製品を作ってもらうために新しい機械を入れてほしい、ともなかなか言えませんから、難しい部分は自分たちでカバーする、と。
今当工場にあるワイヤーの機械もそういった経緯で導入してきたものです。以前はワイヤー製品も協力工場さんに発注していたのですが、廃業されて。そうした時に、「だから作れない」とならないためには、やはり自分たちで機械を持っていないといけない、ということで少しずつ増やしてきました。

だから、うちにあるのは、ほかにプレス機のほか、ワイヤーフォーミングやフチ切り機など、ジャンルは統一されていないんですが、結果的に、他社さんで人員が確保できなくなったという時に、『じゃあ、うちにもその機械あるから、こちらでやるよ』という形でも活用しているというわけです。

―当初から「問屋の工場」として、“産地の下支え”を目的としていたのですね。
自社のためというよりは、産地全体を見たときに、特定の会社がなくなったら消えてしまう技術を将来に残すために、今後も新たな機械の導入を検討していくことになると思います。
似たようなことができる協力工場をあらかじめ作っておければいいのですが、なかなか簡単なことではありません。「この工場ならこれもできるな、あれもできるな」という技術的なことがわかってから、何年かかけて少しずつ仕事をお願いして、すり合わせていく必要があります。技術面だけではなく、生産キャパの問題もあるので。
―産地全体の穴を埋めていくような動きですね。
そうですね。磨き屋さんや、フチ切りといって切削やコバ取り(裁断面の角を滑らかにする加工)といった少し特殊な加工をしている工場は数が少ないのですが、後継者の問題などで廃業になる可能性もあったりします。
そういった加工についても、技術を継承していけたら。「その会社がなくなったから、もう作れない」とならないために。


“問屋の工場”として、地場のメーカーと連携しながらものづくりを行う下村企販株式会社の製造拠点、柳山工場。
今までにない新しいものづくりを目指す家事問屋の製品の陰には、地場の工場との綿密なやりとりを一手に担い、きめ細かいサポートを行う柳山工場の存在があります。
産地をとりまく環境の変化に対応し、世界に誇る燕三条クオリティを末永く守っていくため、これからも地場の工場と助け合いながら、他の産地では成し得ないものづくりに取り組んでいきます。


読みもの登場製品

横口ボウルザルセット 15
価格:4,400円(税込)

横口ボウルザルセット 20
価格:4,950円(税込)

横口ボウルザルセット 26
価格:5,500円(税込)

ゴミ袋ホルダー
価格:1,980円(税込)