読みものcolumn

【こうばを訪ねて vol.10】「世界最薄」を実現した唯一無二の鋳造技術で、「燕三条」を発信

文/金子 美貴子


金属加工品の一大産地、新潟・燕三条で30社以上の工場と一緒に家事道具をつくる、家事問屋。毎日の暮らしの「ひと手間」を助ける道具をお届けしています。

私たちが大切にしていることは、道具と共に、作り手の想いもみなさんへ届けること。

そのために日々工場を訪ねて、既存製品の反響を共有しながら、新たな製品づくりを進めています。

今回訪ねたのは、燕三条で鋳物(いもの)に向き合い60年以上。唯一無二の鋳造技術を持つ株式会社三条特殊鋳工所(サントク)です。

鋳物とは、高温で溶かして液状になった金属を、砂などで作った型の空洞部分に流し込み、冷やし固めてつくる製品のこと。自社ブランド「UNILLOY(ユニロイ)」の鋳物ホーロー鍋では、厚さ2ミリという「世界最薄」を実現し、多くのデザイン賞を受賞されています。

家事問屋では、湯沸かしの際に一緒に入れるだけで、手軽に鉄分補給ができると大好評の「てつまろ」を製造していただいています。

妥協のないものづくりを追求し続ける2代目社長の内山照嘉さんと、燕三条の技術力を後進に伝え、発信役も担う開発広報・企画部の田口圭一さんに、ものづくりにかける情熱や産地への想いを伺いました。

「世界に一つ」の鋳造技術の誕生

―内山さんは2代目ということですが、会社を継ぐことを考えたのはいつ頃からですか?

【内山さん】小学校2、3年の頃から洗脳教育を受けました(笑)。「お前が跡継ぐんだぞ」と言われていましたね。小学校高学年からは手伝うように言われて。葛藤がなかったかといえば、やっぱりありましたけどね。

―サントクは創業時から鋳物製造をされていたんですか? 

【内山さん】そうです。ずっと自動車や機械の部品を作る下請けメーカーでした。キッチンウエアは、「KOMIN」というブランドをもともとはOEMとして製造していましたが、自社でブランドを引き継ぐことになったんです。その後はアウトドア用品のOEMなんかも請け負いました。

▲「KOMIN」の鋳鉄(ちゅうてつ)フライパン

自社ブランドの「UNILLOY」を作ったきっかけは、2010年頃の大不況だった時ですね。仕事がなくて、暇だった頃の依頼で、樹脂製の薄さ2ミリほどのフライパンのサンプルを持ってこられたんですよ。「これだけの薄さのものを、鋳物で作るのは難しいと思うんだけど。できなかったら削ってもいいから作れないか」って。そこで、「じゃあ一発でやってやろうじゃないか」と思ってしまったわけです(笑)。

市場には、すでに三重県の鋳物メーカーが自社ブランドとして出していた鋳物の薄いフライパンがあったんですが、それは1.5ミリの薄さに削って仕上げたものでした。なので、削ればそこまで薄くできることは知っていたんですよ。でも削ることなく、一発で仕上げてあるものはなかったので、挑戦しようと。

▲鋳物は1500度で溶かした鉄を、砂を固めた型に流し込んでいく

―削るのと、一発で仕上げるのとでは質的な違いはあるのでしょうか。

【田口さん】削ると表面がツルツルになりますが、削らないと、鋳物特有の少しザラザラした質感になります。そちらの方がお肉を焼いたりする時もくっつきにくく、料理には適しているんです。

【内山さん】機械部品の製造では、部分的に薄いものも作っていたんですが、均一に薄いというものではなかったので、最初は大変でしたね。

―そうして完成したのが、自社ブランド「UNILLOY」の鋳物ホーロー鍋。「世界一軽い」というキャッチコピーでしたが、削らずに2ミリという薄さを実現する「世界初」の鋳造技術ということでもあったんですね。

【内山さん】そうなりますね。

▲「世界一軽い」UNILLOY(ユニロイ)の鋳物ホーロー鍋

自社ブランド「UNILLOY」でデザイン賞を総なめ

―初の自社ブランド「UNILLOY」の鋳物ホーロー鍋は、2012年にドイツの「アンビエンテメッセデザインプラス」を皮切りに、「グッドデザイン賞」「ベスト・オブ・ザ・ベスト」など、多くのデザイン賞を受賞され、話題になりました。かなりの転機だったのではないですか?

【内山さん】そうですね。大きな転機にはなりました。でも、まだ実にはなってないなあ(笑)。実は、削って薄くするより、一度で薄く作る方が、製造コストがずっと高くつくんです。「こんなはずじゃなかった」というくらい原価がかかる。当然、費用についてはやる前から考えてはいましたが、実際にやってみると想定を大きく上回って。

業界の中では話題になって、OEMの注文もたくさん来たんですが、とにかく原価が高いので、なかなか採算が合わない。やればやるほど赤字、というような状況になってしまって、自社でやるしかなくなりました。

うちはメーカーなので販路がなかったんですが、問屋さんを通すと販売価格を倍近くに設定しないと利益が出ないんです。価格帯を相場に合わせるためには、直で販路を開拓するしかありませんでしたね。主要な百貨店には置いてもらえるようにはなったんだけど、問題はそこからで。商品を説明してくれる販売員さんを付けないと売れないんですね。

ー製品はよくても、販売となるといろいろな課題が出てきたんですね。

【内山さん】 百貨店の物産展からはお声がかかるので、私が行くんですが、催事などでは直接説明ができますし、手にとってもらえれば扱いやすさを体感していただけるので、よく売れます。自社ブランドの売上自体は、まだ全体の1割程度ですから、今後は請負の機械部品と自社製品の売上比率が50:50くらいを目指していきたいですね。

▲UNILLOY製品のデザインは、プロダクトデザイナーの山田耕民さんが担当。海外も含めて、さまざまな賞を受賞している
▲片手でも持てる軽さで、「とにかく重い」という鋳物鍋のイメージを覆した

作り手のこだわりを伝える家事問屋に共感

―家事問屋は「てつまろ」で、初めてサントクと一緒にお仕事をさせていただきました。開発は田口さんに担当していただきましたね。

【田口さん】最初にお問い合わせをいただいたときの説明で、すぐに製品イメージはつかめました。いただいた図面から3次元データを作って、型を削って、試作品を見てもらって、という感じでした。

▲「てつまろ」の型。上下に作ったものを合体させる

―サントクの皆さまのおかげで、スムーズに進めることが出来ました。

【田口さん】ありがとうございます。ただ、一見シンプルなんですけど、何とも言えない丸みがあって、3次元データを作るのが大変でした。1回目の試作では「ちょっと高さが足りないね」という話になって、数回修正しました。鋳物は型さえできれば、あとはその型に流し込むだけなので、製造自体は簡単なんですが、その型を作るのが難しかったですね。

―家事問屋に対してはどんなイメージをお持ちですか?

【田口さん】燕三条の技術を丁寧に商品化して、現代に合った暮らしを提案していますよね。燕三条ならではのブランディングをされていて素晴らしいと思います。

【内山さん】家事問屋は評判いいですよ。各地の百貨店の物産展で、うちの商品と一緒に「てつまろ」も売ってるから。お客様が「あ、家事問屋だ」「家事問屋いいよね」って。

―うれしいです。「てつまろ」は家事問屋の中でも人気商品で、「てつまろ」がきっかけで家事問屋のファンになってくださったというお客様も多いんです。今回の読みもので「UNILLOYの会社がてつまろを作ってるの?」と驚かれる方もいらっしゃるんじゃないかと思います。

【田口さん】お互いが協力して、協業の相乗効果が生まれたらいいですよね。戦後、アルミ鍋が普及してから、日本人の多くは慢性的な鉄不足になっていますから、鉄製の調理道具による鉄分補給の恩恵は大きいはずなんです。そういったことをもっとしっかり伝えたいと思って、「鉄ミネラルアドバイザー」という資格も取りましたし、「てつまろ」が鋳物や鉄製品についての知識をより深めていく一つのきっかけになりました。その魅力を私たちももっと発信していきたいと思っています。

▲水がおいしくまろやかに。ステンレス・アルミの鍋や電気ケトルに使えるのも人気のポイント

「素晴らしい作り手たちの存在を知らしめたい」

―最後に、産地への想いをお聞かせください。

【田口さん】私はここの生まれではないので、特に思うんですが、一つの商品をほぼこの地域の中だけで作り上げることができるというのは、とても特殊ですし、素晴らしいことだと思うので、その素晴らしさをもっと伝えていきたいと思っています。

また、メーカーが「自社開発製品」と謳っていても、8割は「外注」「下請け」が作っているような製品がたくさんありますよね。燕三条も、全国のさまざまなメーカーの商品の製造を多く担っていますが、これまでは作り手がフィーチャーされる機会がほとんどなかったので、業界内では有名でも、一般にはほとんど知られてきませんでした。

でも今は産直で生産者の名前や顔がわかるようになったように、どんどん「作り手を見せる」という流れになっていると思います。燕三条には自社ブランドを持たないメーカーにも素晴らしい作り手がたくさんいるので、そういうことをもっと知っていただきたいなと思っています。

―家事問屋も、製造してくださる協力会社を積極的にご紹介していますが、作り手が見えることで、使ってくれている人もうれしい気持ちになっていただけると思っています。最近はそのような考えも広がっているように感じます。

【内山さん】いろいろな事情があるから難しい場合もあるかもしれないけれど、燕三条もだいぶそういう流れになっていますよね。

―長くやってこられた内山社長も実感されているんですね。

【内山さん】はい。他社と協力し合って、一緒にやり始めていますよね。そのうち「外注」を隠さないようになっていくんじゃないかな。いろんな会合に出席する機会がありますが、話されている内容が変わってきたなと感じます。

「燕三条のみんなで力を合わせて、世界に発信していこう」という共通意識ができつつあります。昔はね、「燕三条なんてどうでもいい、自分の会社の商品が売れればそれでいい」という感じでしたから。

燕三条は全国区になったなと自分自身感じる機会も増えました。東京のデパートでも 『メイドイン燕三条』というポップが出ていますし、東京でも九州でも8割がたの人は知っていますよ。他社と協力し合うことが同時に競争にもなって、お互いが切磋琢磨していくことで『メイドイン燕三条』の価値が底上げされて、さらにそれをどんどん広げていければいいと思います。

▲鋳物一筋、60年以上の歴史を誇る
▲フライパンがズラリと並ぶ

創業以来、鋳物一筋。不況をバネに、「世界最薄」を誇る自社ブランド「UNILLOY」を生み出した株式会社三条特殊鋳工所。

その高品質なモノづくりで、燕三条ブランドを背負い、全国に発信されています。

この唯一無二の産地を次世代につないでいくため、家事問屋はこれからも作り手に光を当てながら、しっかりと手を取り合い、時代を超えて長く愛される製品づくりに取り組んでまいります。



<取材協力>

株式会社三条特殊鋳工所

〒959-1155 新潟県三条市福島新田丁642
https://www.e-santoku.co.jp/

読みもの登場製品

てつまろ

価格:1,320円(税込)

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