【こうばを訪ねて vol.9】常に新しいアイデアを提案。挑戦し続けて50年
文/金子 美貴子
金属加工品の一大産地、新潟・燕三条で30社以上の工場と一緒に家事道具をつくる、家事問屋。毎日の暮らしの「ひと手間」を助ける道具をお届けしています。
私たちが大切にしていることは、道具と共に、作り手の想いもみなさんへ届けること。
そのために日々工場を訪ねて、既存製品の反響を共有しながら、新たな製品づくりを進めています。
今回訪ねたのは、ステンレス製キッチン用品の開発・製造をメインに行っている池田物産株式会社。
家事問屋では、各種サイズがそろう「システムバット」と「システムトレー」のシリーズを製造していただいています。
極めてシンプルなこの製品は、ブランド立ち上げ時から現在に至るまで、変わらずに高い評価をいただいているロングセラー。家事問屋らしさを体現した象徴的アイテムでもあります。
品質へのこだわりと新製品開発への意欲を持ち続ける代表取締役の池田敏明さんと、長年当社の担当をされている営業部長の宮島守人さんに、品質へのこだわりや産地への想いについてお話を伺いました。
2人の従業員とゼロからの創業
―池田さんが会社を創業された経緯を教えていただけますか?
【池田さん】 大学卒業後に帰郷して、新卒で入社した会社が倒産したんです。「じゃあ自分でやろう」と28歳の時に創業しました。350万の資金を集めて、私以外に1人と電話番の3人で、やかんや鍋などのキッチン用品の輸出業を始めました。
当時は洋食器の全盛期で、本寺小路(三条市街地の飲食店街)なんか、人にぶつからずに歩くのが難しいくらい連日ごった返していたような時代でしたから。「なんとかなるだろう」という感じでね。
事業が軌道に乗ってきて、アメリカ向けの製品の企画製造も始めましたが、そのうち為替の相場変動の影響で輸出業が厳しくなったので、国内に転換することに決めて、全てのアイテムを国内向けに変更したんです。
新しいことを考えるのは、楽しい
―家事問屋ブランドの立ち上げを考えていた時に、真っ先に思い浮かんだのが御社の「システムバット」だったと、立ち上げメンバーが振り返っています。
【池田さん】これは40年前、国内に転換するときに作った第1号の製品です。それまでアメリカ向けに作っていたものを改良して。どうせ国内用に作り直すなら、改良した方がいいでしょう?
―樹脂フタもその時に改良を?
【池田さん】そうそう。このフタの四隅の一つが角になっているのは、開けやすいように指に引っかかるようにしたの。引っ掛けてぶら下げられるように、小さい穴も開けています。
システムバット 1/4 (樹脂フタ付き)
価格:1,650円(税込)
システムバット 1/2 (樹脂フタ付き)
価格:2,530円(税込)
システムバット 1/2ロング (樹脂フタ付き)
価格:2,970円(税込)
システムバット 1/1 (樹脂フタ付き)
価格:3,850円(税込)
―システムバットは当時、この商談室の片隅に眠っていたと聞きました。
【宮島さん】小さいサイズの流通はしていたんです。でも、大きいサイズはなかなか売れてなくて片隅にあったかもしれませんね。家事問屋さんと取引が始まってからは、今では、むしろ大きいサイズの方が売れている印象です。「何を入れればいいの?」と聞かれることがありますが、食べ物に限らず、好きなものを入れてもらえれば(笑)
―金型も一から起こしていただいたそうですね。
【池田さん】捨てちゃってたんだよね(笑)。この大きいサイズはずっと出ていなかったから。「システムトレー」は提案用の見本を作っておいたんですが、それが採用になりました。ほら、匂いが付くからプラスチック製のフタは好きじゃないという人もいるでしょう?
システムトレー 1/4
価格:880円(税込)
システムトレー 1/2
価格:1,430円(税込)
システムトレー 1/2ロング
価格:1,430円(税込)
システムトレー 1/1
価格:2,090円(税込)
―そういうことをよくご存じですね。
【池田さん】料理するからわかるよ(笑)
【宮島さん】フタとしてはもちろん、カットした食材や水切りザルの一時置き用に使ってもいいですし。
―創業して50年になられるのに、自ら新しいものに挑戦する、提案するという姿勢は一貫していらっしゃるんですね。
【池田さん】会社がつぶれるまで提案するよ。何かしら新しいものはいつも用意してます。金型は最低でも一つ100万以上はするから、1年に何千万も金型に使っています。ギャンブルはしないけど、金型を作るのは馬券を買ってるようなものじゃないかね(笑)
―池田さんの若さの秘訣は、常に新しいアイデアに挑戦しようとする心持ちにあるんでしょうね。新しいものを作る時はワクワクされるんですか?
【池田さん】そうでないと50年も続かなかったと思うよ。ゼロから創業しているから、それが当たり前。売上は浮き沈みが必ずあるから、常に新しい商品を考えていかないと。社員の生活を守らないといけないからね。
家事問屋は、問屋まかせにしていないところがいい
―「システムバット」は家事問屋のスタート時から変わらないロングセラー製品ですが、その状況についてはどのように思われますか?
【宮島さん】この大きいサイズがこれだけ売れるとは正直思わなかったですね。
【池田さん】ちょっとびっくりしたね。家事問屋はよくやっていると思いますよ。問屋任せにしていない。自分たちでお客さん(販売店)を回って、直接声を聞いているそうですから。
【宮島さん】この間は四国、その前は北海道に行ったと言っていましたよ。
―今、家事問屋には170アイテムほどありますが、販売店に聞くと、スタッフもシステムバットを使ってくれている率が高いです。
【池田さん】商品は入れ替えしているんでしょ?
【宮島さん】ほぼしていないよね。追加、追加で。
―はい。「一度出したものは、売り続ける」というのが家事問屋の基本スタンスです。
【池田さん】道具だからね。使う頻度の高いものもあれば、低いものもある。たとえ年に数回しか使わないとしても、ないと困るというものはある。単純に売れ行きだけでは測れないさね。それに、売れ筋商品しか置いていないような店、面白くもなんともないよなぁ(笑)。「これ、何だろう?」なんていうものに出会えるのも、店で買い物をする楽しみなんだからさ。
「人を大切にしてきた。それだけ」
―最後に、池田さんの産地への想いをお聞かせください。
【池田さん】もっと若い人が働きやすい産地にしていけるといいですね。俺なんかは中学、高校時代の同級生が同業に多いから、支え合ってここまでやってこられた。専門の工場が多くて、困った時に助け合える関係性があるのはこの産地ならではの強みだと思うから、若い人に引き継いでいってもらいたいね。
【池田さん】 従業員にとってより働きやすい環境づくりのために、うちはこれまで産業カレンダー(※)に則って営業してきたけれど、土日休みを増やせるような取り組みも今年から始めました。
今の若い人は指示待ちの人が多い気がするけど、もっと失敗すればいいんだよね。同じ間違いを繰り返すのはよくないけど、前向きな気持ちで「次に生かそう!」と思えばいいだけ。最初は失敗するのは当たり前だから。
※産業カレンダーとは:新潟・燕三条の地域企業における、休日計画策定の指針カレンダーのこと
―安心できれば、若い人も挑戦しやすいでしょうね。
【宮島さん】私が実際社長にそうしてもらってきましたね。今も自由に飛び回らせてもらってます。
【池田さん】俺は人を大切にしてきただけ。基本はそれだからさ。
何十年も継続しているロングセラー製品を多数持ちながらも、常に新しい製品の開発と品質・生産性の向上に挑み続けている池田物産株式会社。
さまざまな提案と妥協のないものづくりの姿勢で応えてくださいます。
長年にわたる人と人との関係性が作り上げてきた、この唯一無二の産地を次世代につないでいくため、家事問屋はこれからも工場と手を取り合いながら、皆さまに長く愛される製品づくりに邁進してまいります。