読みものcolumn

【家事問屋ものがたり vol.2】地域を守り、次世代へ。「産地問屋」としての使命

文/藤沢 あかり


わたしたち「家事問屋」が、どんな場所から、どういった想いでお客さまに製品をお届けしているのか。その背景をみなさんにお伝えする「家事問屋ものがたり」。
2回目は、家事問屋というブランドの生みの親である、産地問屋「下村企販」についてです。一般的な問屋とは、どう違うのか。そしてわたしたちがなぜ「産地問屋」にこだわっているのかをお届けします。

燕三条のものづくりを知り尽くした産地問屋

1973年頃、前身のジャルコ時代の社屋

家事問屋は、「下村企販」という会社のもとに立ち上がったブランドです。下村企販は、創立50周年を迎えた「産地問屋」。燕三条のものづくりに特化した家事問屋は、長く続く産地問屋としての土台があり生まれました。

家庭用刃物を作っていた下村工業の問屋部門として1973年、独立したのが下村企販です。問屋といえば、全国さまざまな会社から商品を仕入れ、それを小売店に紹介(卸売り)する役割。いわば、メーカーとお店との仲介役です。

では「産地問屋」は何が違うのかというと、「地域に根づいたメーカーに特化した問屋」であることです。

もともとは自社で作った包丁やスライサーなどを卸していたのが、全国をまわるうちに、「新潟なら、お鍋やほかのキッチンツールなどもあるでしょう。ぜひ紹介してほしい」と言われるようになりました。わたしたちの会社がある新潟・燕三条は、全国トップの金属産業の町。それならばと地元メーカーに声をかけ、それを他県のお客さまに紹介して……と、繰り返すうちに、取り扱い品が増え、産地問屋として発展していきました。

下村企販が他の問屋と異なる点は、もうひとつあります。卸売りだけでなく、企画や開発にも携わっていることです。
下村企販では、生協を中心に商品を卸していました。生協には、会員向けのカタログがあり、そこに載せてもらうのです。説明を読みながらじっくりお買い物をしますから、一般的な店舗での対面販売と違い、よそではあまり見かけないオリジナリティに富んだ品が好まれます。かゆいところに手が届くような、そうそうこんなことに困っていたの、という品です。

さらに会員に向けた販売では、お客さんの意見が直接届きやすいことも特徴です。
「このお鍋、もう少しハンドルが短いほうが使いやすい」「ザルの網が破れやすいから、もっと頑丈にしてほしい」「この持ち手に引っかけ穴があったら便利だなあ」。
そんなお声があれば、すぐメーカーに伝え、一緒に改良を検討してもらいます。全国各地に散らばるメーカーとの取引では、こうはいきません。気軽に相談ができるのは、地元の強みです。

それに、それぞれの工場は技術を持った職人の集まりですから、みなさん新しいことにチャレンジする力と気概を持っているんですね。何か要望があるたびに、「よし、やってみよう」と柔軟に新しいことに取り組んできました。そうやって半分オリジナルのような、お客さまの声を反映したものづくりを工場やメーカーと手を取り合って進め、全国に燕三条の品を広げてきたのです。

「安くたくさん売れるもの」の先にある、使い手の思い

「便利なものがたくさんほしい」「より安いものを紹介したい」。そういうお客さんの要望に応え、問屋は商品を探し、仕入れます。この場合の「お客さん」は、「販売店」です。
しかし、安くて便利でたくさん売れるもの、という視点で商品を仕入れるとなると、海外で生産したものには到底かないません。その方が数も多く売れますし、結果として問屋としての規模も拡大できるでしょう。

一方で、わたしたちが考えるお客さんは、「使い手」、つまり販売店の先にいる、生活者一人ひとりです。では使い手の要望はなんだろうと想像したとき、決して安さだけではないと考えました。まず第一に大切なことは、品質と使い勝手。もちろん価格も大切ですが、使い手は「良いものを長く使い続けたい」と思っているのではないでしょうか。

わたしたちが紹介する品は、日本の職人がつないできた技術により、丁寧にしっかりとつくられています。金属加工の町ですから、丈夫で長持ち、手入れもしやすい特徴のステンレスを扱うことにも長けています。

ボウルを作るメーカーは、ボウルを作り続けてきた技術があり、そのエキスパートです。包丁やピーラーなどの刃物、保存容器、泡立て器やお玉といったツールなど、それぞれに技を極めたメーカーがあり、いずれも燕三条が世界に誇る技術を備えています。しかし、一つひとつのメーカーには、良いものをつくる力はあっても、その魅力をアピールし、全国へ広める販路を構築していくのは、また別の力です。ましてや、安さや大量生産が基準の土俵では太刀打ちできません。

商品一つひとつのやりとりが、産地を守る力になる

だからこそ、産地問屋の出番です。地域の代表として、この地のものづくりの良さを、全国に広めていきたいのです。地元の品に誇りを持ち、それを全国に広めていけるのは、産地問屋だからこそできること。ここには、日本の家庭向けに工夫を凝らしながら商品を作り続けてきた歴史があります。その産地の技術と歴史を守っていくのは、産地問屋の大きな使命です。

話題のヒット商品があり、どんなに人気でたくさん売れると言われても、それを理由に仕入れることはありません。産地問屋だからです。目指しているのは、爆発的な受注数でも、そういった商品を扱うことでもなく、産地を未来に残していくこと。

買い物は消費活動です。買うことで、生活が便利になったり、豊かで楽しいものになったりします。けれどもその先に、生産者を応援する力もあるのです。工場、メーカー、産地問屋が手を取り合って、この燕三条を次世代に伝えようとしています。そのコミュニティの輪に、少しでも参加していただけたなら、こんなにうれしいことはありません。

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