【ReLifeが行く、こうば訪問】熱量あふれる取扱店と、誠実な作り手を結ぶ「繋ぎ手」へ
文/金子 美貴子
金属加工品の一大産地、新潟・燕三条で30社以上の工場と一緒に家事道具をつくる、家事問屋。毎日の暮らしの「ひと手間」を助ける道具をお届けしています。
私たちが大切にしていることは、道具と共に、作り手の想いもみなさんへ届けること。
そのために日々工場を訪ねて、売り場の反響や現場の状況を共有しながら、新たな製品づくりを進めています。
今回、家事問屋の取扱店である佐賀県の暮らしの体験型実演ショップ「ReLife(リライフ)」バイヤーの遠藤美帆さんと調理担当の蒲原ひかりさんをお招きし、燕三条のものづくりの現場へご案内しました。
一緒に訪問したのは、株式会社オダジマ。「ホットパン」「パニーニパン」「フライパンカバー」など、さまざまな家事問屋製品を製造いただいています。
家事道具への愛と熱量にあふれる蒲原さん、遠藤さんと、独自性と品質の高さに定評のある株式会社オダジマの社長、小田島智博さんと共に、それぞれの立場の想いや、モノを介して広がる人と人とのつながりについて語り合いました。
「接客に感動した」お二人の情熱が、作り手を触発
リライフさんとの出会いは約1年前。調理担当の蒲原さん、バイヤーの遠藤さんは、プライベートでも家事問屋を愛用してくださっていました。
「焼く、炒める、挟む、蒸す、と調理の幅が広く、さまざまな料理を楽しめるホットパンが特に好きです。我が家では、アヒージョとチーズフォンデュを一度に作ることが多いですね。ホットパンは創作意欲をかきたててくれる相棒です」と蒲原さん。
遠藤さんのお気に入りはパニーニパン。「パニーニはもちろん、野菜、お肉、お魚のグリルもこれ一つでできて、お肉やお魚は、外はパリッと、中はふっくらジューシーに仕上がるし、油ハネが少ないので、コンロ周りの掃除も楽なところがいいですね。ホットパン同様に、ガス・IH対応で、上下を分ければ2つのフライパンとして使えるのもうれしいです」と熱く語ってくれました。
リライフでの家事問屋のお取り扱いを機に、家事問屋スタッフは佐賀へ幾度も足を運び、リライフ主催のイベントにも参加させていただきました。その際、オダジマの小田島社長もお連れしていました。
蒲原さん、遠藤さんの接客を見た時の印象を小田島社長はこう振り返ります。
「私たちは作り手として、一生懸命にものづくりをしていますが、その想いを私たちに代わってお客様に届けたいという気持ちがものすごく伝わってきたんです。お二人の販売の現場を見て、すごく感動しました。
百貨店や大手の小売店などとは全く違うアプローチで、お客さんに寄り添ったやり方で、ものすごく努力されていることが、たった2日間の滞在でしたがひしひしと伝わってきました。
私たちがつくる製品は、いいものさえつくれば、黙っていても売れるというものじゃない。その値が付くだけの付加価値をしっかりと伝えてくれるお店がいてこそ、我々のものづくりが商売として成り立つ。そのことが、お二人の接客を見て、よくわかったんです」
一方、リライフのお二人から見た小田島社長の印象を伺うと、蒲原さんは「一見コワモテなので、最初にご挨拶をした時は『ちょっと怖いなぁ』なんて思っていました(笑)でもお話してみるととても気さくで、質問にも丁寧に答えてくださるとても優しい方でした」とのこと。
遠藤さんは「周囲の人とのコミュニケ―ションをたくさんとってくださる方。快活なご挨拶に礼節を感じ、笑顔がかわいらしい印象でした(笑)。人が話している時はすぐに傾聴の姿勢になるお姿が印象的でしたし、多くは語りませんがものづくりへの熱い思いのある方だと思いました」と、謙虚で温かな人柄が感じられたようです。
普段は出会うことのない工場と取扱店が出会うことで、さまざまなインスピレーションが生まれました。次はオダジマのものづくりの現場をリライフのお二人に見ていただくことで、お互いにとってまた新たな化学反応が生まれるのではないか。
家事問屋として、双方を繋げていきたいという想いから、今回の企画が誕生しました。
いざ、工場見学へ
今回が初めての新潟・燕三条訪問という蒲原さんと遠藤さん。「とても楽しみにしていました!」と目を輝かせているお二人は、ものづくりの現場を体験することが大好き。これまでも地元佐賀の醤油蔵や酒蔵、伝統工芸など、さまざまなものづくりを見学してきたそうです。
「お客様にも燕三条に行くことをお伝えしていたら、『うらやましい』『お土産話楽しみにしていますね』と言ってくださる方が多くて、燕三条に関心の高いお客様が多いことを再認識しました。少しでも多くのものを吸収して接客に生かしていきたいです」と遠藤さん。
オダジマへ向かうと、この日はホットパン、パニーニパン、フライパンカバーの製造を行っていました。
小田島社長は「今日は製品が出来上がっていく工程がわかりやすいように製造ラインを組みました」とお二人を歓迎。笑顔で再会を喜ぶと、工場見学がスタートしました。
「安全第一」の言葉が掲げられた工場内を、小田島社長の説明に耳を傾けながら、蒲原さん、遠藤さんは熱心に作業を見学していきます。磨き作業なども体験しながら、製品が出来上がっていく様を見て、感慨深そうな表情を見せてくれました。
手作業の多さに驚き
工場見学を終えて、お二人に印象的だった工程を伺いました。
「一番印象的だったのは、フライパンカバーの一連の工程が見られたこと。こうやってできていくんだ、ということがよくわかりました」と遠藤さん。
蒲原さんは「研磨などを一つひとつ人力でやっていると、すごく時間がかかりますよね。思った以上に手作業でやっている部分が多かったのは意外でした」
全体を通して、思っていたよりも手作業が多いことに驚いていたお二人。
「うちにご来店のお客様は、ものづくりに関心の高い方が多いので、リアルな製造の現場を見れたことで、今までよりも接客時にお伝えする内容に深みや説得力が出せるのではないかと思います」と遠藤さん。
質問の多いお手入れ方法についても、製造過程を知れたことで、的確な返しができるようになった、と言います。
「例えば、ホットパンのワイヤーの部分に付いた焦げは硬い束子などでこすってもいいのか?と聞かれることがあります。でも、つや消しの加工は粒子で傷を付けているので、こすっても大丈夫、ということがわかりました」
小田島社長も「それで問題ない」とうなずきます。「皿部分はフッ素加工しているので、柔らかいスポンジ等でお手入れした方がいいですが、ステンレスのワイヤー部分はゴシゴシこすってもらって大丈夫です」
「こういう時はどうするの?」「お手入れ方法は?」わざわざメーカーに問い合わせるほどでもない、ちょっとした疑問。道具への関心が高い人ほど、小さな疑問をたくさん持っています。
そうした方々からのささいな質問に、できるだけ答えていきたい。お客様が求めているものを汲み取り、その方にとってより良い提案をしていきたい。そんなお二人の脳裏には、見学をしながら、さまざまなお客様の顔が思い浮かんでいたのかもしれません。
「私たちが販売しているのは、モノではなく、体験」
お二人が全身で体感した作り手の熱を、情報を、燕三条から佐賀の地へ、お客様の体験として誠実に手渡していく。その熱意は作り手の思いも動かしました。
蒲原さんと遠藤さんが「一つひとつの製品に誠実に向き合うものづくりをしている方々の製品を、下手な売り方はできません」と言えば、「一生懸命売ってくれている人たちのためにも、下手なものは作れない」と小田島社長が応えます。
双方の信頼と熱意が相乗効果を生み、ものづくりを新たなステージへ進化させていくことを予感させる工場見学となりました。
「伝え手」から一歩進んで「繋ぎ手」へ
体験を提供するショップとして、さまざまなイベントを開催しているリライフでは、その場に偶然居合わせた初対面のお客様同士が意気投合することも。
「私たちのお客様はほとんど値札を見ていないので、高い、安いというお話にならないことが多いです。お客様にとっての価値をお伝えしていると『それくらいしますよね』『むしろ安いよね』という理解を示していただけるお客様が多いですし、そう思っていただける提案を心掛けています。
私たちの価値観に共感してくださるお客様同士なので、すぐに打ち解けられる方が多いですね。最近、お客様と一緒にいろいろな実験をする『家事倶楽部』という取り組みを始めました。各々が手持ちの家事道具を持ち寄って、料理や洗濯をしたりするのですが、例えば条件の同じレシピでも、道具によって味や食感が全然違うんです。いろいろなことを一緒に試していくラボのようなことをやっていて、毎回とても盛り上がります。
先日は『パニーニパンでサンマを2尾焼いてみたい』というお客様がいらしたので、みんなでおいしく焼く方法をいろいろ試しました。お客様同士の交流の場にもなっていて、体験したお客様同士の口コミで勝手に広がっていきますし、こちらから全部言わなくても、体験してみればその良さは伝わります。感じていただくことを重視している私たちがやっていることはアナログで、時代に逆行しているかもしれませんが、それでいいと思っています」(遠藤さん)
インスタライブでも料理を行うことが多い蒲原さんは「料理人だからと言って、毎回きれいにやろうとか考えていません」と話します。
「以前にホットパンでアヒージョを作った時も、カマンベールを投入しすぎてギタギタにしました(笑)。でもお客様はいろいろとチャレンジする姿に『失敗からどうリカバリーするか』の方を見たがってくれている。それは発見でした。だから、思いつきをその場でどんどん試して、たくさん失敗しようと思っていますし、失敗しても大丈夫、と思っていただけたらいいですね」
うまくきれいに見せようとするのではなく、等身大の姿勢で失敗も見せながら、道具の新しい可能性を探っていくリライフ。ホットパンを使ったアヒージョやデザートサンドのレシピには、「その発想はなかった!」と久保寺も小田島社長もびっくり。新鮮な使い方に、インスピレーションをたくさんいただいています。
製品の可能性を探求してくれるお二人の熱意に、作り手の情熱で応えてくれた小田島社長。
産地の「伝え手」であるとともに、ものづくりに携わる人々の「繋ぎ手」へ。
家事問屋がつなぐ小さなご縁が、その先の新たなご縁へとつながり、巡り巡るご縁の輪が産地の継承の一助になることを願っています。
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