読みものcolumn

【ニイガタ便り】第1話:春、笹だんごの季節です

金属加工品の産地、新潟・燕三条。家事問屋はこの地に「産地問屋」として生まれ、作り手(工場)と共に歩んできました。

新潟は、海、山、川に囲まれた自然豊かな土地で、夏は暑く冬は雪に閉ざされる。四季の変化がはっきりした風土で、金属加工以外にもさまざまな魅力溢れるものがあります。

この読みものでは、そんな「わたしたちの好きな新潟」を発信していきます。家事問屋が、少しでも新潟の魅力をつなぐ存在になれたらうれしいです。

第1話は「笹だんご」。新潟の伝統的なソウルフードで、今では手みやげの大定番です。
今回、家事問屋スタッフの山宮が笹だんご作りを体験してきました。

春のよもぎ、初夏の笹。新潟の風土が育てた伝統食

田植えの時期になると、新潟県民が無性に食べたくなる笹だんご。
よもぎの新芽が顔を出し、笹がきれいな春の終わりから初夏にかけて、昔はかなりの家庭で作られていました。

▲田んぼの状態で季節を感じる新潟っ子。田植えの時期は笹だんごの季節

ここで、笹だんごの歴史を少し。

「笹だんご」という名前が初めて書物に登場したのは、1500年代後半のこと。
砂糖は大変貴重だったため、年貢米から外れたクズ米を使い、海藻や菜っ葉の煮つけなどを包んでいたといいます。

笹は抗菌効果が高いことから、越後の国を治めた戦国武将・上杉謙信が戦の携行食として考案したという説もあります。

そして、旧暦の端午の節句や、田植えを終えたお祝い、秋の豊作を祈念するお祭りなどで食する“ハレの日の食べもの”として地域に根付いていきました。

笹だんごづくりを体験。童心にかえって夢中に

今回訪れたのは、昭和6年創業の「田中屋本店」
「みなと工房」は笹だんごづくりができる体験型ショップです。

▲新潟市内に11店舗を展開。田中屋さんのなかで、笹だんごづくりが体験できるのはここだけ

体験では、お店で販売している笹だんごと全く同じ材料・レシピで作ることができます。
現在、販売責任者を務める田中幸江さんが笹だんごの歴史や文化などを交えながら、楽しく指南してくれます。

「できるだけ余計なものは入れず、安全な新潟産、国内産を使っています」と田中さん。

▲3代目社長の奥様で、工場長なども務めてきた田中幸江さんがレクチャー

田中屋本店で扱っている笹だんごは、こしあん、つぶあん、茶豆、あらめ、ごぼうのきんぴらの全5種類。

あらめは、昆布とわかめの中間のような張りのある食感の海藻で、田中屋本店では佐渡産を使用。甘じょっぱく煮付けたものは、きんぴら同様、家庭のお惣菜として親しまれています。

▲左から、茶豆、こしあん、きんぴら(右下)、あらめ(右上)

体験では、こしあんの笹だんごを作ります。

用意されたもち生地の材料とよもぎの葉を混ぜ、おもちであんこを包んでおだんごを作ったら、笹で包み、畳に使われるイ草で縛り、蒸し上げれば完成です。

▲もち粉は新潟産、笹とよもぎは新潟産と青森産、小豆は十勝産

笹だんご体験に、いの一番に立候補してくれた山宮は、おもちが大好き。この日を心待ちにしていたといいます。

「おもちが大好きで、お正月じゃなくても普段から切りもちをよく食べます。笹だんごは、母がおやつとして定期市でおばあちゃんの手づくりを買ってきますし、お祭りの時にも食べますね。

歴史も好きなので、上杉謙信が考案したかもしれないと知って興奮しました(笑)」

ものづくり精神にも火がついて、やる気十分。いざ、笹だんごづくりに挑戦!

まず、もち粉や上新粉などのもち生地の材料に水を加え、15分ほどこねると、徐々に鮮やかな緑色になっていきます。

もち生地ができたら、手のひらで円形に広げ、あんこを包みます。
「もち生地は、外側は薄く、中央は少し厚めにすると、均等に包めますよ」と田中さん。

アドバイスを聞きながら、「子どもの頃からなんでも手作りをしてきました。おだんごをこねて丸めるのは童心にかえって夢中になれますね」

▲「粘土づくりみたいで楽しい!」と全く疲れを見せず、無心にこね続ける
▲初めてとは思えない仕上がりに満足!

おだんごが出来上がったら、3枚の笹で包み、イ草で縛っていきます。
ここで、イ草を笹に縛る作業に意外にも苦戦。

「あれ? 難しいな……。こんなに難しいと思わなかったです!」

この工程はとても複雑で機械で自動化することはできないため、人の手で行うしかないのだそう。

難しいと言いながら、どこか楽しそう。コツをつかみ始めた頃に作業は終わり、最終工程に進みます。

▲地域や家庭によって、結び方もいろいろ。現在、新潟市や長岡市で主流の「横しばり」

包み終えた笹だんごを木製のせいろに入れて、待つこと20分。

せいろの蓋を開けると、もうもうと上がる湯気と一緒に、みずみずしい青草を思わせる笹とよもぎの香りが部屋中に広がります。

蒸したての笹だんごは、ふっくらしっとり。とてもやわらかいのに、コシもある。
「がんばって練り込んだ甲斐がありました」と笑顔で、手づくりの特権を満喫したのでした。

▲木製のせいろで蒸すことで、よりおいしさが感じられる
▲新潟っ子はバナナの皮をむくようにして、手で持ったままいただきます
▲できたての笹だんご。複数を一つにまとめるスタイルが携行食といわれるゆえん

笹だんごをおいしくいただくコツ

自然な材料で作られる笹だんごは、時間が経つと乾燥してかたくなっていきます。
買ってきた笹だんごを自宅でおいしく食べるコツをお聞きしました。
簡単なので、ぜひ試してみてください。

●やわらかい状態の場合
笹に包まれている状態のまま、オーブントースターで3~5分ほど温めると、よもぎの香りや風味が際立ちます。

●固くなった場合
笹に包まれている状態のまま、水を入れた容器に入れます。水に浸した状態で、電子レンジで2~3分温めるとふっくらやわらかくなります。

季節や笹だんごの状態によって適切な温度や時間は変わるので、様子を見ながら加減してくださいね。

▲2階のイートインコーナーからは、信濃川と朱鷺メッセを一望
▲店内では、笹だんごを包んでいく職人の見事な手さばきをガラス越しに見学できる

作り手に思いを馳せる 。その豊かさを再認識

今では、定番の新潟みやげというイメージですが、ほんの数十年前までは、当たり前のように各家庭で作られていた笹だんご。
実際に作ってみて、知っているようで知らなかったことがたくさんありました。

一つひとつ手作業で作っていることも知り、作り手の存在を思うことで豊かな気持ちになることもあらためて実感。

ものづくりに携わる人間として、家事問屋の製品に対しても同じように思ってくれる人がいてくれたらうれしいな、と思うと同時に、人の心を豊かにする、もっといい製品を作っていきたい、と気持ちを新たにしました。



〈店舗情報〉
田中屋本店 みなと工房
新潟県新潟市中央区柳島1-2-3
025-225-8822
https://www.dangoya.com
笹だんご体験は5名から受付可、事前予約制。詳細はHPをご参照ください。

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