読みものcolumn

【ニイガタ便り】第5話:家族の絆で歴史を紡ぐ。糀屋団四郎の「糀づくり」と「味噌づくり」

文/松永 春香


金属加工品の産地、新潟・燕三条。家事問屋はこの地に「産地問屋」として生まれ、作り手(工場)と共に歩んできました。

新潟は、海、山、川に囲まれた自然豊かな土地で、夏は暑く冬は雪に閉ざされます。四季の変化がはっきりした風土で、金属加工以外にもさまざまな魅力溢れるものがあります。

この読みものでは、そんな「わたしたちの好きな新潟」を発信していきます。家事問屋が、少しでも新潟の魅力をつなぐ存在になれたらうれしいです。

米どころ新潟県には、日本酒や米菓、切り餅といった米を生かした特産品がたくさんあります。発酵食品に欠かせない「糀(こうじ)」もその一つ。

良質な米から作られる糀は、毎日の食事をおいしくする最高の調味料であり、健康にも、美容にも高い効果が期待されるスーパーフードです。

今回訪れたのは、新潟市南区の味噌蔵。昔ながらの味噌のおいしさや、オリジナルの商品、糀レシピも提案する「糀屋団四郎」さん。

発酵のノウハウについて、4代目の藤井寛さんと、昔ながらの製法を両親から受け継いだ藤井康代さん、高橋統子さん姉妹にお話を伺いました。

4代目夫婦と姉の3人で挑む、昔ながらの製法と味わい

糀屋団四郎がつくる糀は、蔵の目の前に広がる田んぼで育った新潟県産コシヒカリと、糀づくりに適したコシイブキが使用されています。

手間を惜しまず、愛情たっぷりにつくられた糀。

看板商品の味噌からも、そのおいしさを実感できます。 味噌の製法について聞いてみると、糀屋団四郎ならではのこだわりが見えてきました。

―糀屋団四郎が貫く、昔ながらの伝統製法とは?

康代さん】団四郎では、創業時からずっと大豆を和釜で煮る「留釜(とめがま)製法」を取り入れています。最近では大豆を蒸し上げて味噌をつくる蔵の方が多いかもしれませんが、うま味を逃さないこの製法が私たちのこだわりです。

▲創業以来受け継いでる和釜で「煮る」という伝統製法

寛さん】製法は昔から変わりませんが、さらにおいしい味噌になるように研究を続けています。

康代さん】姉が糀づくりを担当していて、一生懸命手作りした糀を使っています。

―それぞれの役割分担があるんですね。

【統子さん】それぞれに作業時間が違うのである程度の分担はしていますが、どの作業も全員で対応できるようにしています。

―3人体制で作業をするようになったのはいつ頃からですか?

康代さん】2019年ですね。2007年に私が団四郎に入社した当時は、父と母、祖母と4人で作業をしていました。三きょうだいの末っ子だった私が跡を継ぐなんて、思いもしませんでした。

▲康代さんのご両親、三代目 藤井喜代志さん・和代さん

先代である母は、東京農業大学の社会人コースで醸造の技術を学び、それをきっかけに2003年頃から農大生の研修を団四郎で受け入れるようになりました。最初は家業を継ぐことに抵抗がありましたが、農大生の影響もあって「私もやってみたい」と思うようになりました。

▲研修に訪れた東京農業大学の学生たち

寛さん】私は岩手出身ですが、最初にここで味噌づくりをしたのは20年前の農大生として研修に来た時でした。5年前に久しぶりに味噌づくりをさせてもらった時は懐かしく感じました。研修時代のことを覚えてくれていたお義母さんが、東日本大震災で震災した僕に「うちに来ませんか?」と手を差し伸べてくれたから、今も味噌づくりができています。

統子さん】私は母が体調を崩したタイミングで手伝うようになったんです。父が母につきっきりになってしまうと人数が減ってしまうので、いてもたってもいられませんでした。

―さまざまなきっかけが重なって、今のチームができあがったんですね。それにしても、皆さん息がぴったりです。

康代さん】味噌づくりをしていると、不思議と仲良くなるんです。味噌づくりは協力し合わないとできないので、そういうところがあるのかな。

▲前日から煮ていた大豆を、和釜から取り出す作業。一番の力仕事を共同で行う

統子さん】手をかけた分だけ応えてくれる糀は、正に生き物。作業中も変な言葉はかけたくないですし、「暑くないかな」「寒くないかな」と、我が子のようにいつも気にかけています(笑)。

国産大豆でつくるおいしい味噌

―国産大豆にこだわるのは創業当時からでしょうか?

康代さん】創業当時からずっと。創業者である定三と二代目清次は新潟の大豆にこだわって使っていて、三代目喜代志より上質な北海道産大豆を使うようになりました。米や大豆だけでなく、しその実やその他の素材もできるだけ国産です。

康代さん】団四郎では看板商品の「金印味噌」には北海道大豆トヨマサリ、新潟県産米、天日塩を使っています。「銀印味噌」には新潟県産エンレイ、新潟県産米、並塩。金印と銀印は塩と大豆の原料がそれぞれ違います。金印の方は糀量が多いのでマイルドに感じられるのも特徴です。

―糀屋団四郎さんの一番人気商品は?

【康代さん】「金印味噌」ですね。同じ製法でつくられる銀印も、どんどん人気が出ています。

寛さん】大豆を育てる農家さんのクオリティも上がっているので、以前よりもさらにおいしくなっていますよ。

統子さん】この地域でずっと商売をしているので、タッパーを持参して味噌を1kg、2kg買っていかれる方もいます。糀を買って味噌や甘酒、塩糀など、皆さんそれぞれのレシピで作っているようです。

毎日食べたい、バラエティに富んだ商品

―「越後味噌」の定義は?

康代さん】味噌の種類は大きく分けると2つ言い方があります。ポイントは、味噌の色と原料です。越後味噌は赤味噌で色が濃い。西京味噌は白味噌で色が白く、関西で好まれていますね。

糀の原料は、米の他に麦や大豆もあり、「豆味噌」「麦味噌」「米味噌」に分けられます。越後味噌は米味噌で赤味噌。糀の配合が6割から8割と言われています。

―寛さんの地元である岩手県とも違うのでしょうか?

寛さん】同じ豪雪地ですが、大豆と米の割合で地域性が若干違うようです。

東北は全体的に塩分が高い特徴があります。塩分13%くらいで、糀量も違うからしょっぱめの味噌づくりをされている蔵が多い印象です。

ただ、私の実家である味噌蔵「和泉屋本店」でも、営業していた頃は糀の割合で商品のバリエーションを増やしていました。6割糀と10割糀、13割糀なんて商品もあり、甘めの味噌も作っていました。秋田の一部では糀を多くして甘い味噌を好む地方もあります。味噌は地域によって、特色があるので面白いですね。

―糀の量は甘みに影響するんですね。

康代さん】白味噌は米味噌ですが、大豆よりも糀の量が何倍も多いから白くて甘い。そして、発酵期間が早い。糀量が多いほど発酵が早くなります。

―味噌のおいしさを活かしたオリジナル商品も作られていますが、おすすめは?

康代さん】「レモン味噌ディップ」かな。イベント出店の試食用に作ったものでしたが、とても好評でしたので商品化しました。

統子さん】老若男女問わず喜ばれています。小さいお子さんにもおすすめですよ。

康代さん】味噌とオリーブオイル、ニンニクのすりおろし、黒胡椒、レモンという、意外な組み合わせなんですよね。オリーブオイルにもすごくこだわっていて、イタリア・トスカーナの一番搾り。実は、すごく高級なオリーブオイルを使っています。小瓶シリーズは「鉄火味噌」から始まり、今では定番4種が揃いました。

―かわいい小瓶でギフトにもちょうどいいですね。

康代さん】そうなんです。「味噌漬ふりかけ しその実」は母がよく食卓に出していた思い出の味。どれもそれぞれ商品化された背景にはおいしい物語があります。たくさんの方に召し上がっていただけたらうれしいです。

誰でも体験できる「味噌づくりイベント」が大好評!

―味噌づくりイベントはいつ頃から開催していますか?

康代さん】味噌づくりイベントは30年ほど前から続けています。

最近では団四郎から味噌づくりセットを買って、独自に味噌づくりを行われる団体さんも増えてきていて。形を変えながらも、開催数が増えてきています。

▲手作り味噌キットも販売

寛さん】「糀だけ送ってくれ」と言われることも多いよね。

康代さん】意外と味噌の作り方は単純ですし、自分で作ったものは一番おいしいですからね。子どもたちへの食育にも最適です。

―地元小学校との取り組みにも力を入れているそうですね。

寛さん】地元の小学校では生徒さんたちが大豆栽培をしているので、その大豆を煮上げて持っていき、小学3年生に味噌作りを教えています。他の小学校では、味噌蔵までお越しいただき、見学してもらったりもしています。

康代さん】昔は各家庭で熟成させる「仕込み味噌」が主流でしたが、時代の流れとともに味噌をつくる家庭が減ってしまい、味噌が何からできて、どんな風に作られているのか、知らない子が多いもの。子どもたちに興味を持ってもらえるように、これからも積極的に小学校との交流や味噌づくりイベントを続けていきたいです。

笑顔が増える「糀のある暮らし」を海外にも届けたい

―今後の展望は?

寛さん】海外にも味噌を輸出していきたいと考えています。現在の生味噌ですと要冷蔵になってしまうので、海外に輸出しやすいよう、栄養成分はそのままに、低温殺菌で常温保存できるように食品研究センターと共同で研究しているところです。

康代さん】昨年から中国人ツアーの方が定期的に蔵見学にお越しいただくようになり、インバウンドの流れも感じています。

【統子さん】世界中で日本食は注目されているので、団四郎の味噌も海外の人々に味わってほしいですね。

―創業100年を目前にした、新たな挑戦ですね。

康代さん】新商品として温めているレシピが実はたくさんあります。ただ、3人で運営している小さな蔵なので、まずは今ある商品のブラッシュアップをし、時期をみて少しずつ商品も増やせていけたらと思います。

糀も、味噌も、小瓶シリーズも。全て100%のおいしさを届けたいので、品質管理にもこだわり続けていきたいです。


〈店舗情報〉
糀屋団四郎
住所:新潟市南区新飯田1607
電話番号:025-374-2611
営業時間:8:30~17:00
定休日:土曜午後、日曜・祝日
HP:https://www.dansirou.com

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