開発ストーリー「揚げものトングが生まれるまで」
文/金子 美貴子
自宅でおいしく揚げ物を作りたいけれど、突然飛んでくる油はねが怖かったり、手元が汚れたり…。
油はねを気にして菜箸を使っても、しっかりつかみきれずまた油の中へ。揚げ物調理ってなかなかハードルが高いですよね。
そんな揚げ物調理に重宝するのが、家事問屋のトングの中でも揚げ物専用として作られた「揚げものトング」。
一般的なトングより、やや長めになっていて油はね対策をしながら揚げ物調理のストレスを軽減してくれる優れものです。
今回は、開発者の日々の料理がきっかけで誕生した「揚げものトング」の開発ストーリーをお届けします。
目次
油はねなどの「揚げ物ストレス」を解消したい
「揚げものトング」を開発したのは、「ゴミ袋ホルダー」も担当した清水。子どものころから家事全般をこなしてきた経験をベースに、商品企画の着想を得ています。
「WEB上のアンケートを見ると、揚げ物で嫌なことの1位は、『油はね』がダントツなんです。私も料理をよく作っていますから、実感としてわかります。やけどの跡は残りやすいですし、男性目線でも油はねはこわいです」
ひと昔前に便利グッズのブームがあった時には、油はね対策グッズもあふれていたといいます。
「囲いやガードネットなどがありましたが、溶接作業をしているようで調理しづらいんですよね(笑)。なので、油はねそのものを防止するものというより、距離を取って揚げ物ができるようなものを作れないかと考えました。菜箸だと、うまくつかめなくて落としたりしやすいですし、箸を使うのが苦手な人が増えていて、これからもその傾向は続くだろうと思いました。そこで、長さと扱いやすさを兼ね備えた揚げ物用のトングを開発することにしたんです」
樹脂製や、先端にギザギザが付いているものなど、さまざまなタイプのトングを取り寄せて研究。一般的なトングは短く、BBQ用などの細長いトングは、長さと頑丈さはあるものの、重量感があり、バネも硬いものが多く、持ち手の真ん中近くをつかむ必要があり、結局コンロから十分な距離を取ることが難しいこともわかりました。
「重視したのは、軽くて、開閉具合が変わらずにいつでも同じ感覚で使えること。そして、バネに近い部分を持っても扱いやすく、やわらかいものも潰さずにつかめることにもこだわりました」
油はね対策になるだけではなく、面倒な揚げ物料理が少しでも楽しく、快適になるようなトングを目指し、開発を進めていきました。
失敗できない…! 大緊張で臨んだ試作品
油はね対策になる長さとして、30センチを採用。一般的な菜箸とそろえることで、収納のしやすさも考慮しました。
長くても使いやすいものにするためには軽さが必要。燕三条ではさまざまな会社がトングを製造していますが、トングのバネ部分の特許を持つ田辺金具にお願いすることにしました。
「田辺金具のトングは使い続けてもバネの弾力が失われないので、変形が少なく、同じ使い心地を保ってくれるのが大きな魅力です。家事問屋にはいくつかトングがありますが、すべて田辺金具につくっていただいています。薄くてもしっかりと長く機能するバネは、大切なポイントなんです」
食材をつかみ損ねて、ボチャッと油に落としてしまうことも油はねの大きな要因になります。そこで食材が落ちにくいよう、先端部分はギザギザの形状に。穴を開けることでその分軽くし、油切れも向上させました。
また、調理台や卓上にパッと直置きできるよう、先端を浮かせるデザインに。
「既存の製品ではだいたい脚が付いていますが、デザイナーの小泉 誠さんが『脚は付けたくない』と、ピンセットのようにつかみやすさも向上する緩やかなカーブを付けたデザインを考案してくれました。つなぎ目がない一体型で洗いやすく、家具問屋らしいシンプルで機能的な美しいデザインになったと思います」
話を聞いているとスムーズに開発が進んだように思えますが、実は今までにない大きなプレッシャーに襲われていたのだとか。
「今は3Dプリンターなどで用が足りるので、金型までは必要ない場合が多いんです。このトングも、長さと先端を浮かせる形状については、板状のサンプルで検証が可能でした。でも、実際の使い勝手については、金属にプレスを施したリアルな試作品じゃないと、実際の軽さや板厚、バネの具合、つかみ心地などの検証ができません。ただ、金型製作には中々の費用がかかるので、簡単につくるわけにはいかないんです。
試作品のために一から金型を起こす必要のある製品は初めてだったので、きつかったですね。他社製品を含む既存のトングを試しまくって、仮説の根拠を強めることで乗りこえました」
あらためて、長さは30センチも必要なのか?他のトングと並んだ時に頭一つ出るのはどうなのか?あらゆる観点から一つひとつ時間をかけて問い直し、ようやくこぎつけた試作品は、ほぼイメージ通り。限りなく完成品に近い仕上がりとなったのでした。
安心感のある使い心地で、揚げ物が楽しい
「揚げものトング」は、油はねをはじめとする揚げ物調理のストレスを軽減し、揚げ物が楽しくなる快適な使い心地です。
滑らかな質感で、コンロからしっかりと距離を取りながら、軽い力で揚げ物をつかむことができます。ギザギザの先端が、コロッケやとんかつをしっかりキャッチ。菜箸では難しい、やわらかいクリームコロッケや崩れやすいかき揚げもお任せください。
真ん中に開いた穴で油切れはもちろん、ゆで玉子にもぴったりのサイズ感。つるりと滑り落ちる心配がありません。箸使いが苦手な人も、安心して使うことができます
揚げ物はもちろん、アウトドアにも使えて、パチンとはぜる火やもくもくの煙から距離を取りたいBBQにもピッタリです。
「揚げものトング」なら、揚げ物調理が、今までの何倍も楽しくなるはずです。
値段に対する価値を決めるのはお客様
結婚を機に生まれ育った東京から移住し、下村企販に入社してものづくりの醍醐味を知り、作り手へのリスペクトが深まったという清水。
さまざまなものが値上がりしている昨今、あらためて家事問屋が提供すべき価値を認識したといいます。
「2023年は、値上げ、値上げの一年でした。一般に、値上げに対する反応はいいものではなかったと思いますが、協力工場からは『値上げに対してネガティブな反応をしないのは珍しいね』と言われました。
高いか安いかを決めるのは自分たちではなく、使い手となる消費者の皆さん。価格に見合った価値があると感じてくれれば、値段の不満は意外と少ない。自分がずっとマイナーな趣味を持っていたので、その感覚は肌でわかります。相場より高い価格で提供しても、必要とする人に価値が伝われば、妥当あるいは安いとさえ思っていただける。そういう価値ある製品を作り続け、買うべき理由を明確に提示することが私たちの仕事であることをあらためて認識しました」
常に当事者目線で、生活の中にある困りごとの中に価値を見出し、「家事問屋」というブランドで産地と生活者をつなぐことで、一度失われたら取り戻せない貴重な技術を次世代に継承していく。
その一助となれるよう、産地と手を携えながら、長く愛されるものづくりに取り組んでまいります。
油はねなどのストレスが多い揚げ物調理を快適にしてくれる「揚げものトング」。
つなぎ目がないため洗いやすく、手入れをしやすいので、面倒な後片付けのストレスも軽減してくれます。
手間暇のかかる料理の時間が、少しでも快適で楽しいものになりますように。
読みもの登場製品
揚げものトング
価格:2,200円(税込)