開発ストーリー「干しかごが生まれるまで」

文/金子 美貴子
冷蔵庫が生まれるまでの長いあいだ、貴重な食糧保存の知恵だった干し物。
水分を飛ばすことで、甘みやうま味が凝縮して美味しくなるうえに、太陽光でビタミンDが生成されるなど栄養価もアップするという利点があります。
かさも減るため、量をしっかり摂ることもできる干し物は、普段から積極的に取り入れたいもの。しっかりと乾燥させれば、保存が利くのもうれしいポイントです。
そんな干し物を気軽に手作りできるのが「干しかご」。
細かい網目で、虫が侵入するのを防ぎます。
頑丈なステンレス製で、食洗機を利用することもでき、常に清潔に使えて安心です。
食材の量に合わせて使うザルの数も調整可能。別売りのかごを追加して、最大4段まで重ねて吊るすことも。
今回は、楽しく干し物づくりができる「干しかご」の開発ストーリーをお届けします。
女性陣からの反応に、手ごたえを確信

「干しかご」を開発したのは、2013年に中途入社した女性社員。子どもの頃からものづくりが大好きで、高校卒業後は工業デザインを学び、前職では家具のデザインを行っていたという経歴の持ち主。「筒型茶こし」「洗濯板」の開発も手掛けています。
家事問屋の立ち上げ時にはウエブサイトのデザインやパンフレットなど、グラフィックデザインや動画作成も担当。図面作成も自身で行い、他の開発メンバーの図面作成も行っています。
そんな彼女は、日々の暮らしの中で常に開発ネタのアンテナを張り巡らせています。
「使いきれなかった野菜や果物をダメにしてしまうことがありました。それまでは、食材の保存方法として、冷蔵か冷凍しか頭にありませんでしたが、ある時『干す』という保存法にあらためて注目してみたんです。
自分で作ろうと思ったことがありませんでしたが、考えてみれば、しっかり長持ちするし、かさも減るしで、すごくいいなと思ったんです。また、私自身ドライフルーツが好きなのですが、市販のものは量が少なくて、あっという間に食べきってしまうんです。自分で作ることができれば、たくさん食べられますし、砂糖を減らしたり厚みを変えたりとアレンジもできると思ったことも考案のきっかけになりました」
会社でアイデアを話してみると、次々に「それほしい!」とのリアクションが。
「干し物を作ったことはないけど意外と関心を持っている人が多く、『そういう便利な製品があるなら私も作ってみたい!』という反応に手ごたえを感じました。いつもはターゲットを細かくイメージするのですが、干しかごについてはそういった設定は不要でした」
想像以上の反応を得たことで、早速開発に着手しました。

品質と価格と技術のせめぎ合い!妥協なくこだわり抜いた逸品

干し物づくりを手軽に楽しめる今までにない製品づくりを目指し、早速類似品を収集。代表的な既存製品としては、3段とか4段になっている干し網ネット的なもの、また当社の既存品にパチンと留める蓋付きの丸かごタイプなどがありました。

「蓋を留め金で固定するタイプは風などで揺れても外れにくい反面、中を見るためにちょっと外す、ということができません。無駄な空間もできやすく、もっとコンパクトなものにできないかと考えました。
網ネットは、畳めるので収納しやすく、手ごろな価格も魅力ですが、サイズが大きく、吊るした状態で作業をする必要があり、洗いにくいのも難点だと感じました。チェーンで吊るすタイプは、ブラブラと動きやすく、少々安定感に欠けるなと」
それぞれの長所と短所を研究し、新しい形を模索する日々が続きました。そして、行き着いたのが「積み重ねる」という形状。これならスペースを取らず、かごの数を調整することもできる!とひらめきました。

「振り返ってみれば『積み重ねる』というアイデアが出るまでが一番大変だったと思います。それからも、課題を一つクリアしたら次の課題が現れる、の繰り返しで、利便性・デザイン性・コストのバランスが常に課題でした。発売日が決まっていたので、最後は時間との闘いでしたね」
少しでもシンプルに、余分なものをなくすための努力は、家事問屋らしい洗練されたデザインを目指すものでありながら、原材料や製造のコストを少しでも抑えるためのものでもありました。
「いくら便利でも、高すぎて手が出せないようでは意味がありません。3段のものでも10,000円はどうしても切りたかったので、必要十分なサイズと形状を徹底的に追求しました」
製造は、ザル製品でお世話になることの多いミネックスメタルに依頼。今までにない製品づくりにあたり、技術面のすり合わせは難航したといいます。

「工場さんの立場に立てば、新しい製品に対しては不安もあると思います。『それはちょっと難しいですね…』と言われたときは、実際の製品やイメージしてもらいやすいよう、3Dプリンターでモデルを作って持っていくこともありました。お互い納得できるまでの期間、こちらも必死でした」
ミネックスメタルの他製品だけではなく、他社製品も調べ、なんとか首を縦に振ってもらうための説得材料を用意。自ら図面や3Dモデルを作成し、技術面にも精通する彼女にしかできない粘り強い交渉と、度重なる試作品づくりを基にした話し合いが続きました。

「先方から試作品が上がって来るのを待つ時間も惜しかったので、当社の柳山工場で試作品を作ってもらったりもしました。社外の専門家の意見をお伺いするのにも、いつもなら試作品をお送りして、メールなどで意見をいただくのですが、今回はそんな余裕が無くて。なんとか会う時間を急遽作っていただき、試作品を持って東京駅や大阪まで弾丸で飛んでいって、その場で意見を伺ったりもしました」
限られた時間の中で、これまでにない最高の製品をつくりたい。その一心で、なんとか期限までに完成にこぎつけたのでした。




どこまでも広がる! 干し物づくりの奥深い世界

栄養価が高まり、食材のうま味が凝縮し、食感もアップする干し物。調理時間の短縮にもなる上、かさが減ることで量をしっかり摂ることもでき、水分をしっかり飛ばすことで長期保存も利きやすい、といいことずくめです。
さまざまな食材の干し物のつくり方や活用法についても研究し、リーフレットも作成。
「干しかごをきっかけに干し物デビューをされた方々はもちろん、さらに干しかご生活を充実させたい、という方にも、食材に応じた切り方や並べ方のコツなどを知っていただいて、干し物づくりをより楽しんでいただけたらと思います」 せっかく作った干し物の活用もワンパターンにならないよう、使い方についても研究を重ねました。

「干し芋やパイナップルなどフルーツはそのまま食べられますし、野菜類は汁物や煮物、炒め物、漬物や炊き込みご飯などに活用できます。個人的なおすすめは、野菜くずを干して出汁をとったお味噌汁です。社内で試食してもらったら、『あなたが作ったとは思えない! 料亭の味だねえ』なんて言われました(笑)。ハーブを干してハーブティーにしたり、手づくり化粧品に活用したりしている方もいるそうです。私自身、『次は何を干してみようか』と考えるとワクワクするので、ぜひみなさんにもいろいろ試していただいて、干し物の奥深い世界を一緒に探求していけたらと思っています」
家事問屋の製品があることで、生活がより豊かになりますように。発売後の声も集めて、さらに良い製品にしていけますように。家事問屋の開発者の仕事は「作って終わり」ではありません。製品づくりの「その先」にある風景をいつも見つめています。

さまざまな食材がよりヘルシーにおいしくなって、料理の幅もグンと広がる干し物づくりを気軽に楽しめる「干しかご」。
目の細かい網目で、隙間なくぴったりと重ねて使えるので、異物の混入をしっかり防ぐことができます。
食材の量に応じてかごの数も調整可能。安定感があり開閉も簡単だから、こまめにチェックしやすく、かごの入れ替えや取り出しもスムーズです。
食洗機でも洗えるステンレス製で、清潔に使えるのも安心。干し物をしないときは普通のザルやかごとして使えるのも便利です。
奥深い魅力のある干し物づくりに手軽に挑戦できる「干しかご」が、より健康的で楽しい、生活の一部になれますように。
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